なんでこんなにも自分の主張をするのかなと思う人がいる。「患者が困っているのに治療しないのか」「責任がとれるのか」。こちらの事情を説明したり、善意で行っていてもだ。それがいつも疑問だった。

あるとき、靴を買いに行った。僕の気に入った靴の在庫がないという。店員さんに他の店舗ならあるのか尋ねると、「あるかもしれませんけど」と返って来た。僕は「それならいいです」とむすっとしたままお店を出た。そのとき、ハッとした。どこかで見た光景だった。そうだそんな患者さんがいた。僕もいつの間にか「自分は客だ」という意識を持っており、サービスを受けるのは当たり前、店員さんが僕にベストを尽くすのは当たり前だと思っていたのだ。あのときの患者さんと僕は何ら違わなかった。

後日、テレビで昭和を代表する歌手の三波春夫さんの人生についての番組を見た。三波春夫さんは「お客様は神様です」という言葉で有名なのは、昭和の終わりに生まれた僕も知っていた。その番組の中で三波さんのその言葉の意味は「歌うときには、聴いてくださるお客様を神様に見立て、神前で祈るような気持ちで歌う」だったと解説していた。ところが1980年代以降、サービス業で「お客様は絶対」「お客様の言うことは正しい」「店員は我慢するもの」という意味で使われることが増え、本来の意味から離れていったそうだ。後日、三波さん自身も、「お客様は神様ですが、神様の方から『俺は神様だ』と言ってはいけない」とおっしゃったと言う。僕はまさに1980年代から現在に至るまでの日本を生きて来た。知らず知らずのうちに「お客が偉い」と思い込んでいたのだ。たしかに日本はサービス至上主義の時間が半世紀近く続いた。勘違いしていた自分が恥ずかしくなった。